【北朝鮮】核開発・兵器調達 ネットワーク中枢に日本人がいた

国連制裁にもかかわらず、北朝鮮は核開発に邁進してきた。制裁が抜け穴だらけだからだ。制裁違反を捜査してきた国連安保理 北朝鮮制裁委員会 専門家パネル元委員の古川勝久氏は、著書『北朝鮮 核の資金源』でその実態を明らかにした。同氏は制裁逃れに日本人が関わっていると言う。

 国連安全保障理事会で10回にわたって採択された北朝鮮に対する制裁決議は、加盟国が大量破壊兵器に関連するヒト・モノ・カネを北朝鮮と取引することを厳しく制限する。これらは法的な拘束力を持ち、「最強の制裁」と称される。

 それなのになぜ、北朝鮮核兵器や米国に届く長距離弾道ミサイルICBM)を開発できるのか。答えは、北朝鮮が巧みに制裁逃れを遂行することと、それを見逃す関係諸国があるからだ。

 制裁逃れを支えるのは、世界中に張りめぐらされた北朝鮮のネットワークだ。

 例えば中国から中東に禁輸物資を送る場合、彼らはカンボジア籍船舶の貨物船をチャーターして香港の企業に運行させ、代金決済にシンガポールの金融機関を使う。一連のプロセスに北朝鮮という国名は一切出てこないため摘発が難しい。

 実はこうした制裁逃れネットワークの中枢で「日本人」が暗躍している。2013年7月、パナマ運河を通過中の北朝鮮の貨物船「チョンチョンガン号」に対して、米国の要請でパナマ政府が貨物検査を行うと、船内に積まれた大量の砂糖袋の下からトレーラー6台とコンテナ25個が見つかった。

 コンテナの中には分解された旧ソ連製のミグ21戦闘機や地対空ミサイルシステムなど、夥しい数の通常兵器のパーツが隠されていた。積み荷はキューバの軍港で船に積まれ、北朝鮮に向かう途中だった。

 過去最大級の武器密輸の隠蔽を指示したのは、北朝鮮最大の海運会社「オーシャン・マリタイム・マネジメント社(OMM)」。OMMのネットワークは世界中に広がっており、関連企業187社が海運業や製造業、金融などを幅広く手がけていた。

捜査を重ねると、OMMの主要なフロント企業「ミラエ・シッピング香港(香港ミラエ社)」の代表者として日本人A氏の名前があがった。

 香港ミラエ社は貨物船の運行手配や海外送金を通じてOMMの活動に携わり、明白な制裁違反を行っていた。その代表者であるA氏は少なくとも14社の香港企業を取り仕切り、8隻の北朝鮮関連船舶を所有するキーマンだった。

 A氏が取締役を務める別の企業Z社の事業所は東京・新橋の雑居ビルの一室にあった。北朝鮮への制裁強化を訴える日本政府の目と鼻の先に、核・ミサイル開発につながる制裁違反で暗躍する日本人がいたのだ。

 だがZ社自体が制裁違反を幇助した確証はなく、日本国内の居住者(A氏)が海外で国連制裁違反をしても(香港ミラエ社)、国内法では裁けないため日本の司法はA氏を取り締まれない。

 北朝鮮のネットワークに関連する日本人はA氏だけでない。北朝鮮の対外活動の拠点であり、過去に北朝鮮関係者の「巣窟」と呼ばれた日本には、様々な「対北協力者」が存在する。

 実際、日本製品北朝鮮に「ダダ漏れ」している。

 2006年以降、日朝貿易は全面禁止されたはずだが、北朝鮮の高級デパートではヤマハの楽器やセイコーの高級腕時計などが堂々と陳列されている。昨年9月に北朝鮮が6度目の核実験を強行した際、安倍首相は「最大限の対北圧力を加える」と明言したが、その数日後に日本国内で生産されたとおぼしき岩手産の醤油や神戸産の日本酒が北朝鮮のスーパーで売られていた。

 最大の問題は、日本の対北朝鮮制裁が二国間の貿易という古いモデルを前提としており、制裁違反の目的で第三国に潜む北の工作員や協力者との取引を取り締まる国内法がないということだ。グローバル化した非合法ネットワークに対応して、日本政府は今すぐに法律をアップデートして、“抜け穴”を塞ぐ必要がある。

 各国に「制裁強化を」と訴える前に日本政府自身がやるべきことは多い。

●ふるかわ・かつひさ/1966年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。1998年ハーバード大学ケネディ政治行政大学院にて修士号取得。1999年読売論壇新人賞優秀賞受賞。科学技術振興機構社会技術研究開発センター主任研究員などを経て、2011年から4年半、国連の「専門家パネル」委員を務める。その経験をまとめた『北朝鮮 核の資金源「国連捜査」秘録』(新潮社)が話題に。

※SAPIO2018年5・6月号
5/21(月) 7:00配信
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180521-00000006-pseven-kr